丸太小屋日記 ~オーミック電子の開発室から~

超音波センサーメーカー、オーミック電子の公式ブログです。

サン=テグジュペリの道具論

普段はあまり小説など読まないのですが、学生時代に好きだったサン=テグジュペリの「人間の土地」を先日読み返してみたら、ものづくりに関するとても良い表現があったので紹介したいと思います。

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“どうやら、ある機械が完成したと言えるのは、もはや何も付け足す必要がなくなったときではなく、何も削る必要がなくなったときらしい。機械はその進化の最終局面では姿を隠すのだ。
だから、発明品を完成させることは何も発明しないことに似ている。道具の目につく仕組みが徐々に消滅し、最終的には波に磨かれた小石のように自然な形状を持つ何かが僕らの手に委ねられる。これはすばらしいことだ。だが、それと同じようにすばらしいのは、実際に機械を使用する人間の意識からも機械が少しずつ姿を消していくのだ。”
                          -人間の土地 Ⅲ 飛行機 より-

 

このあとパイロットとして扱う飛行機がだんだんと改良され遂にはエンジンが回転していることを忘れていられる、それはあたかも心臓が鼓動するようなものでいちいちその存在に気づくことはなくなるという話に続きます。

初めはある機能を実現させるために、まず製品として完成させる。それが使われていく中で余計なものが削ぎ落とされ、機能としての完成度が上がっていくと同時にスタイリング(製品の顔つき、面構え)も良くなっていくということは経験上良く理解できるので、この表現にはとても共感できました。

製品の存在自体が意識から消えるというある種の究極論ではありますが、ものづくりの1つの理想論として頭の片隅に入れておきたい考え方です。見えている、主張しているという段階はまだまだ二流、未完成ということになりますね。

今でこそ車で言えばマツダが「引き算の美学」などと言ってデザインに力を入れていたり、日用品でいうと無印良品が「ふつう、定番」を標榜し削ぎ落としたデザインを目指していたりしますが、これからいよいよ足し算のものづくりが始まろうとする20世紀の前半にこのようなことが言えるというのは、パイロットという命懸けの職業人としての真剣さ、厳しさからくるものであり、命懸けの道具の使い手としてものづくりの本質に迫らざるを得なかったからではないだろうかと推察します。

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ラテコエール28

学生時代に読んで特に響かなかった箇所が働き始めてから響いて来るというのはなんとも面白いです。仕事で疲れた時や現実から少し離れたい時に、文字通り空高く飛んで視点を変えることができる小説ですのでオススメです。

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渋谷豊さん訳(光文社)が読みやすい