丸太小屋日記 ~オーミック電子の開発室から~

超音波センサーメーカー、オーミック電子の公式ブログです。

2021年振り返り


2021年12月24日クリスマスイブ。ようやく文章を書く時間と心の余裕ができたので今年一年を振り返ろうと思う。

プリント基板製造(回路設計) 

昨年の振り返り記事で書いた今年のテーマの一つ回路設計、プリント基板設計については新規案件とともにやらざるを得ない状況となり、1月からの基板発注回数を数えてみると38回となっていた。これは昨年の2回と比較して大幅に伸びており基板製造の技法というか芸風が板について来たということが言える。加えて今年からは試作用の基板だけでなく量産用の基板をいかにつくるかということが大きなテーマであり、解決法はズバリ可能な限り部品を実装するところまで製造依頼し自社での実装作業を少なくするという方法である。幸い基板製造業者が小ロットの部品実装(SMT)に対応しており、受動部品(抵抗やらキャパシタ)や汎用のIC、トランジスタなどを実装した状態で基板を製造してくれるので大変ありがたかった。設計に際してはこちらの記事に大変お世話になった。

金型製造(メカ設計)

今年製造した金型についても数えてみると案件ごとに下記のようになった。
①鉄道向けセンサー用 3型(ケース、カバー、防振ゴム):1月に発注
②特殊車両向け無線式センサー 2型(ケース、カバー): 10月、11月に発注
③建機向け稼働時間モニターデバイス 3型(ケース、カバー、防水パッキン):12月発注

全部で8型も作ったのか。金型を作るということは量産が決まったということで新規案件を量産に乗せたという意味において小メーカーとしてはがんばった方ではないだろうか。依頼している金型屋が今年の新規発注分については金型セットアップ料金を永久免除するというキャンペーンをやっていたことからもここ数年の日本全体の新規金型製造の案件数は芳しくなかったのかもしれない。そんな中、丸太小屋においては各案件で新しい試みをした。①では基本モデルは今までの実績のある形状を踏襲しながらも新たにOリングを使った防水構造を採用した。(型を起こした後にOリング構造のアイデアが出てきたため金型修正となったが幸い金型削り方向だったため大きな出費にはならなかった。)②では昨年までの3Dプリンタ品を金型品に設計し直すという作業を行いスライド構造になる面を少なくしたり3Dプリント品で採用していたインサートナットを廃止し全てタッピングネジで締結するなど原価低減を試みた。③では初めて外観にシボを入れるようにした。シボを入れるために側面の抜き勾配を通常よりも多くとる必要があり、やや設計に手間取ったが、シボを入れることにより後から塗装などしなくて良いので組み立て効率が上がるはずだ。またシリコンゴムによる防水設計にも初めてトライした。こちらの金型は来年1月に完成するので楽しみである。

組み立て人員増強

上記②案件の製造数量が昨年の3倍を超えてきたので、製造方法だけでなく製造人員を補強する必要が出てきた。幸いなことに知人のツテを使い会津大学から2人の学生が応援に来てくれることになった。初めの方こそこちらが指示を出し動いてもらっていたが、数週間もすると自ら効率の良い方法を考えて動いてくれたので彼らの推進力に逆にこちらが引っ張られていたような気がする。彼らのおかげで何とか予定の数量を納めることができ無事に一年を終えることができた。

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組み立て風景
支えになった本

10月後半から12月前半は組み立てラッシュで、途中別の新規案件の試作品作りなどもあり大変忙しくなっていた。気分転換に昼休みに読んでいたホンダジェットの本の中で設計主任の藤野さんがロッキードのケリー・ジョンソンに言及していて「機体のネジ一本に至るまで彼のGOサインがないと作れない」というようなことを言っていた。どんな大きなプロジェクトでも強烈なリーダーシップと権限と責任を持ったたった一人の人間がいて初めて効率的に前に進むという趣旨のことが書かれていた。興味を持ったのでケリー・ジョンソンと彼の後釜のベン・リッチの本を読んでみた。そこには50年代から80年代にかけての航空機設計者の栄光と苦悩の歴史が書かれており大変勇気づけられた。空軍に納めるため半年以上休みなしで一日12時間以上働いていたというような記載が随所にあり、当時の人たちも命を削って作っていたのだなと思うと自分たちがやっている組み立てはそこまで大変ではないと思うことができ幾分精神的に楽になった。

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設計者たちの本

ちょうどベンリッチの本を読み始めていたとき、上記③案件でちょっとした問題があった。防水用のゴムパッキンの材料をお客さんがシリコンと指定してきていたのだがゴム屋に確認すると材料入庫状況が怪しいとのこと。シリコンを指定している理由は現場で発生する窒素酸化物により通常のゴムだと劣化してしまい、防水機能が低下してしまうということだった。どうしようかと頭の片隅に置いておいたのだが、ある昼休みに読んでいたベン・リッチの本の中に関連する記述を見つけてしまい飛び上がってしまった。以下、引用する。

 しかし、しばらくして不思議な現象が発生し、深刻な事態となった。整備員がエンジンバルブ類の内側にあるゴムシールの破損や、コクピットの与圧シールから圧力が漏れるのを発見したのだ。ゴム類が数週間で酸化して劣化してしまうのである。まったく原因がわからず、頭をひねるばかりだった。シールを取り替えても、数週間でまた漏れが始まる始末。 

 このミステリーの答えは、ある日、「ロサンゼルス・タイムズ」の第一面の中ほどを読んでいるときに見つかった。そこには、ヨーロッパの自動車タイヤがロサンゼルスの自動車には適さない理由が説明されていた。それによると、スモッグのためゴムが酸化し、パンクや異常な摩耗を引き起こすというのである。犯人はスモッグの主成分、窒素酸化物によって発生するオゾンだった。

 アメリカのタイヤメーカーは、南カリフォルニアに出荷するタイヤに、酸化防止剤としてシリコンを添加していた。この記事を読んで、私は思わず椅子から飛び上がった。U-2の飛行する大気圏の最上層はオゾン濃度が高い領域である。

           引用元:ステルス戦闘機 スカンクワークスの秘密 ベン・R・リッチ著

この記述を読んで私も飛び上がり、60年以上も前に同じ問題が別の場所で発生していることに何ともいえない嬉しさを感じ、やはりシリコンでシーリングしないとダメなのだと確信した。ほどなくして最終設計をゴム屋に渡した段階で再度問い合わせてみるとシリコンの硬さ違いのもので入庫が見込めるとのことで材料確保の問題は解決した。

部品不足の中で

製造業に携わる人であれば誰しもここ1,2年の部品不足、材料不足に頭を悩ませていることだろう。うちも例外ではなく電子部品のみならずプラスチック等の材料関係の部材確保に四苦八苦していた。新製品向けの設計も進める必要があったため部品選びには慎重になりつつも早く買わないとなくなってしまうという懸念からある種の博打的な購買をしていたこともあったように思う。毎日のように数十万から時には数百万規模の購買をしていると在庫があるうちに買い占めるという感覚が身についてしまい適切な価格を比較せずに買ってしまう事故が起きたこともあったので、来年は気をつけていきたい。ただし、このような状況であるからこそメーカーの姿勢が問われるわけで材料がないからと安易に「作れない」と言ったり「値段を上げる」と言ってしまうのは如何なものかと思う。本気で探せばなんとかなる方法はあるはずで、例えば電子部品がなければ代替部品を探して基板を設計変更したりすることで対応できることもあるだろう。来年もこの状況はしばらく続きそうなので、材料確保に目を光らせつつ柔軟な対応ができるようにしていきたい。

来年に向けて

今年はお客さんからの要望を何とか打ち返していくことで精いっぱいだったので、来年はもう少し余裕をもって新しいことを仕掛けていければと思う。幸い新製品を量産していく体制ができつつあるので、来年はそれをさらに安定させて次の製品を余裕を持って開発できる体制をつくりたい。まずは残りの数日を使って部屋を片付けようと思う。あ、そのまえに以下の3機を組み立てなければ!!

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ベンリッチが率いたF-117ナイトホーク
プロダクトデザインという言葉が陳腐に聞こえるほどの機能美

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ケリージョンソンの代表作 P-38ライトニング
ユニークな双胴機体

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そして我らがゼロ戦

来年も何卒よろしくお願いいたします。

皆様良いお年を!!