3Dプリント小技集 ③印刷の向き
今日は3Dプリント時の印刷の向きについて書いていきたいと思います。
印刷の向きは印刷時間や部品の強度に関わってきますので、重要なポイントの
ひとつです。
せっかくですので最近私が作ったこちらの部品を例に見ていきましょう。
これは高所作業車用センサーにマグネットを取り付けるためのアタッチメントです。さて、この部品をどの向きで印刷しましょうか。。
原則① アンダーカットがない方向(サポート材が付かなくなる方向)
積層型の3Dプリンタの場合下の部分から形状を作っていく(積み上げていく)ため、
垂直方向に見て初めは形状がなかった部分に後から形状が出てきたりすると
形状が出てくるまでの部分にサポート材と呼ばれる樹脂が付きます。この部品の場合、このような向きで印刷するとサポート材が多くなり、印刷時間の増加とサポート材を剥がすのに時間がかかってしまいます。
よって、原則①に則って向きを決めると下のような向きになります。
原則② 強度が保たれる方向
印刷物の形状によっては力がかかりやすく折れたり剥がれたりしやすい部分が出来てしまうことがあります。この部品の場合、2つの丸穴が開いている箇所が弱い部分であり原則①の向きで印刷すると積層面と力の方向の関係で下のように折れてしまうことがあります。
そこで印刷の向きをこのように変えてみます。すると積層面と力のかかりやすい方向が垂直方向に近くなるため折れにくくなります。
今回の部品は力がかかる場所に用いられるため、サポート材は増えてしまいますが原則②の方向で印刷することにしました。印刷後の部品がコチラ。
基本的には原則①の方向で、強度が関わる場合は原則②も気にしながら印刷方向を決めています。参考になれば嬉しいです。
<関連記事>
ohmic-electronics.hatenablog.com
ohmic-electronics.hatenablog.com
ハイウェイテクノフェアに出展して
LEDのVf低下と定電流ダイオード
工業デザイナー 奥山清行さんのこと
その他にも「デザインは質より量だ!」「日本人は個人でこそ世界で活躍できる!」など彼の名言が詰まった書籍「人生を決めた15分 創造の1/10000」と「100年の価値をデザインする」は特におすすめです。
高所作業車用の安全センサーを作った理由
3Dプリント小技集② タッピングネジ VS インサートナット
製品の筐体を設計する場合、大きく分けて2つの部品を設計することになります。
一つ目がケースです。お弁当箱でいうところの箱です。箱の中にいろいろな具材を詰め込んだあと、そのままだと持ち運びしたときに具が溢れてしまいますので、蓋をする必要があります。この蓋が二つ目の部品で、カバーと呼ぶことが多いです。
ケースとカバーは何らかの方法で固定する必要があります。お弁当箱だとフックや
ゴムバンドなどで固定しますが、産業用の製品ではネジを使うことが多いです。
ネジによる固定には大きくわけて2種類あります。
一つ目はタッピングネジ(写真左)を用いた固定です。ふつうネジ(写真右)とくらべてネジ山の間隔が広いことがわかります。タッピングネジは受け側の材料にねじを食い込ませて固定するものです。この場合、受け側の材料は木や樹脂などになります。日曜大工で木材の固定に使われるモクネジや絵画を壁に掛けるときに壁にねじ込むねじなどはタッピングネジといえます。産業用でも成型した樹脂ケースをタッピングネジで固定することがあります。前職で設計を行っていた車載向けのインテリア製品などではタッピングネジを使っていました。
もう一つはふつうネジとナットを用いた固定方法です。板金の筐体や重量のある金属部品などを固定するときはネジとナットでがっちりと固定することが多いです。
それでは3Dプリント材料を使う場合はどちらの固定方法を使うでしょうか....
実はどちらの方法も使っています!今のところ、下記のように使い分けています。
「小型部品や主要部分外の固定にはタッピングネジ、大型部品やメインの固定部(ケースとカバーなど)にはふつうネジ×インサートナット」
インサートナットを樹脂ケースに埋め込むことで、ふつうネジとナットによる強固な
固定を行うことができます。なぜ主要部にタッピングネジを使わないかというと、タッピングネジの受け側である樹脂のねじボスが割れてしまうことがあるからです。金型を使った射出成型品ですと樹脂が100%近く充填されるのでねじボスにタッピングネジが食い込んでもしっかり受け止めてくれるのですが、3Dプリンタだとプリンタの種類にもよりますが、ねじボスが一部中空になってしまうことがあり割れの原因になります。
そこで、インサートナットを埋め込みます。
インサートナットをセットして、
トンカチでたたきます。
しっかりと入りました。
このような形で3Dプリント品をしっかりとネジで固定できます。タッピングネジよりもしっかりと固定したいという方はぜひ、参考にして頂ければと思います。
<関連記事>
ohmic-electronics.hatenablog.com
ohmic-electronics.hatenablog.com
3Dプリント小技集 ①反り対策
3Dプリンターを使う方にとって初期設定の次に立ちはだかる問題のひとつが造形物の反りです。
産業用に一般的に使われるABS樹脂は収縮率が比較的高いので、10cm四方以上の大物を印刷するときによく反ることがあります。いろいろな対策があるようですが、私は以下の2つの方法でなんとか対応しています。
①射出口と印刷台とのスキマ確認
230℃くらいで溶けた樹脂が出てくる射出口(エクストルーダー)と印刷台とのあいだには僅かな隙間が必要です。この隙間が広すぎると樹脂がきれいに積み上がらないし、隙間が狭すぎると射出口から樹脂が出にくくなり、最悪の場合、樹脂が出口で固まってしまい修理が必要になります。
私の経験上、反りが起きやすいときは射出口と印刷台とのあいだが広くなっていることが多いです。「同じ3Dモデルで以前はきれいに印刷できたのになんで今回は反るんだーー」という場合はたいていこれが原因です。そんなときは付属のスキマ確認カードを隙間に差し入れてカードを動かします。
カードがスイスイ余裕で動くときは隙間が広いので、隙間を狭めます。逆にカードがぎちぎちに動かない場合は隙間が狭いので広い方向に調整します。ベストな隙間はカードがわずかな抵抗をもって動く状態です。動くのだけれどわずかに引っ張られている感じです。
②造形物の形状変更 (外径段差付け)
そもそも印刷された造形物が反る原因は樹脂の収縮です。射出口から出た樹脂が冷めていく過程で収縮するのですがそのときに前の層をわずかに引っ張り上げ、結果的に端の方からベロりとはがれていきます。
そこで端の方がはがされやすいのであれば初めに端だけしっかり印刷してから、中央部を印刷すればよいというアイデアが浮かびます。このような3Dモデルで外径部だけ数ミリ段差をつけています。
このようにすると初めに外径部だけが印刷されて中央部からの収縮の影響を受けないため、きれいに印刷できることが多いです。
反りが起きた時はぜひ試して頂ければと思います。